わが投資術 市場は誰に微笑むか 単行本 – 2024/3/1
25年で93倍のパフォーマンスを記録したファンドを運用した男、清原達郎。最後の長者番付である2005年には、約100億稼ぎ世間に広く名が知られるようになる。そこからリーマンショックを乗り越え、アベノミクスやコロナ後の株高で更に資産を増やし、ファンドの運用総額は1520億円。そのうちの半分を超える800億円以上の個人資産を持つ伝説の投資家が、2023年の夏にファンドを閉じ株の世界を引退。投資に人生を捧げた男が、今まで培った考えや経験を惜しみなく綴り、投資哲学や投資の心構えを教えてくれる1冊。個人投資家必見の内容となっています!
私が本書を読んだ感想を皆さんにシェアしたいと思います。見出しは私の考えを交えた上で記載しているので、本書のタイトルとは異なります。
投資の鉄則
株価に織り込まれていないアイデアを見つける
「株価のアイデアを探す」=「株価に織り込まれていないアイデアを探す」ということです。市場参加者のほとんどが認知している事象やアイデアは、すでに株価に織り込まれています。そのアイデアで投資してもリターンを得ることはできません。まだ市場に認知されていないアイデアを見つけ、そのアイデアが多くの参加者に知り渡った時に株価が上昇して利益を得れるのです。
例えば直近のAIブームで、AI半導体市場を独占しているNVIDIAが大きく上昇しています。「AIがブームになり、AI半導体を作るNVIDIAが大きく利益を伸ばす」というアイデアを少し前から持っていた人は今の相場で爆益を手にしています。まだ市場に反映されていない、もしくは完璧に反映しきれていないアイデアが、多くの参加者に知れ渡った時に利益を手にできるのです。ではどうやって株価に反映されていないアイデアを見つけるのでしょうか?その見つけ方は後ほど詳しく説明します。
大多数の考えが正しいとは限らない
大多数の考えは市場に反映されています。しかしその考えが正しいとは限らないのです。市場は、あなたの意見が少数意見である限りあなたの見方であると、筆者は断言しています。自分以外の全員が正しく、自分1人が大きな間違いを起こしたとき、致命的なダメージを受けることはないでしょう。しかし自分だけ正しく、他の全員が間違っていた場合、大きな利益を手にできるのです。これは何故でしょうか?筆者の具体例を交えて説明します。
2004年、東京三菱銀行とUFJ銀行の統合が発表され、合併比率はUFJ銀行がかなり不利だという考えが市場に織り込まれていました。多くのヘッジファンドが三菱銀行を買い、UFJ銀行を売というポジションを構築していていたのです。ただ筆者は極端にUFJ銀行が不利になることはないと考え、逆のポジションをとったのです。つまり三菱銀行を売り、UFJ銀行を買ったのです。結果は合併比率が1:1と発表され大勝利。100億円ほどの利益を上げたのです。多くの参加者と違う意見を持っていたため利益を上げられたのです。ではもしこのアイデアが間違っていたらどうなっていたでしょうか?結論、大きな損失を被ることにはならないでしょう。なぜならば既に織り込み済みだったからです。このように自分以外の全員が正しく、自分1人が大きな間違いを起こしたとき、致命的なダメージを受ける可能性は低いです。しかし自分だけ正しく、他の全員が間違っていた場合、大きな利益を手にできるのです。
個人投資家が勝つ方法
この章では個人投資家が勝つ方法について述べていきます。本書を読んで感じたことは、個人とヘッジファンドの情報格差はやはり大きいということです。ネットで多くの情報を手にすることが可能になったけど、金融の最前線の情報まで行きつくことは難しいと思います。しかし個人だからこそ、できることもあるのです。個人投資家がやってはいけないこと、やるべきことを計3つ紹介します。
空売りは個人は不利
筆者のファンドでは空売りを利用して多くの利益を上げました。その手法は、出来高急増による過熱感と、空売りの買戻しの株価ピーク形成時に空売りでエントリーする手法です。ほとんどの銘型は国内の空売り残高よりも、海外の空売り残高の方が多いみたいです。この点が個人投資家が空売りをしても勝てないと筆者が述べる理由です。理由は海外の空売りの状況は個人だと把握することができないのに対し、ヘッジファンドではプライムブローカーから状況を教えてもらうことができるからです。筆者は海外の空売り状況を知らずに、空売りでエントリーすることは無謀とまで表現しています。我々個人投資家に空売りは向いていないのです。
非伝統的情報源を用いる
個人投資家が勝つには「非伝統的情報源」を用いることが重要だと筆者は述べています。非伝統的情報源とは世の中に開示されていない情報のことです。例えば友達から業界の情報を教えてもらうとか、投資クラブを作り情報交換をするとかなどです。(インサイダー情報には注意してください!)また自分の属する業界では、プロの投資家よりも知識が圧倒的に深くて有利に投資できます。世の中に開示されていない情報から、新たなアイデアを発掘して投資するのは勝つ確率が高まりそうですね。
暴落時に買い向かう
個人投資家はファンドとは違い、常に株を持っておく必要はありません。良い株がなければ、ノーポジションで居ることも可能です。一方ヘッジファンドはどんな相場でも利益を上げるために、常に一定のポジションを維持する必要があります。ここに個人の旨味があるでしょう。暴落したときに買い向かうのです。本業での収入があれば暴落相場も耐えしのぐことができます。個人投資家の自由に身動きできる点が大きなアドバンテージになるでしょう。
ここまでは筆者の考え方や勝つ方法について解説しました。では実際にどのような株を買えばいいのでしょうか。筆者は割安小型成長株一択であると断言しています。株価に織り込まれていないアイデアの発掘も、個人投資家の優位性も活かせるのが割安小型成長株なのです。では解説していきます。
割安小型成長株
小型株は割安で放置されている
冒頭で、株価に反映されていないアイデアを見つけることが利益に繋がると述べましたが、小型株は株価に反映されていないアイデアが多くて、割安で放置されている可能性が高いのです。理由は大きく2つあります。1つ目は参加者が少ないからです。大型株は複数のアナリストが存在して、多くの参加者がいることで株価が適性値に近い状態が保たれます。しかし小型株にはアナリストがいないことが多いです。参加者が少ないことで、本来の価値と乖離することが起こりやすいのです。2つ目は流動性の低さです。流動性の低さから機関投資家が入りづらいのです。多くの投資家から見向きもされていない企業も多くて、割安のまま放置されているのです。だからこそ、流動性をそこまで気にする必要性がない個人投資家は優位性があるのです。
重要な指標 キャッシュニュートラルPER
では割安成長株はどのようにして見つけるのでしょうか。筆者が愛用する使用する指標として、キャッシュニュートラルPERがあります。この指標はPERと財務状況を踏まえて割安か、割高かを判断することができます。では説明していきます。
キャッシュニュートラルPER=PER×(1-ネットキャッシュ比率)で表されます。
ネットキャッシュ比率とは何でしょうか?
ネットキャッシュ比率=(流動資産+投資有価証券×70%-負債)/時価総額
=ネットキャッシュ/時価総額です。
時価総額に対する資金の潤沢度(ネットキャッシュ)を表す指標です。(投資有価証券に70%をかけているのは税金分です。)ネットキャッシュ比率が1というのは「会社がただで買えるほと割安」な状態です。大きければ大きいほど割安です。ただネットキャッシュ比率が1以上だと割安すぎて、キャッシュニュートラルPERを算定することができません😂
(例)ネットキャッシュ=150億、時価総額200億、PER15倍
ネットキャッシュ比率=150億/200億
=0.75
キャッシュニュートラルPER=15×(1-0.75)
=.375
財務状況を加味した利益の3.75倍で会社を買えるということになります。筆者のファンドはキャッシュニュートラルPERが低い企業から、優良な企業を発掘して大きな利益を手にしたのです。財務状況よりも成長率に目が行きがちですが、財務状況もとても大事です。リーマンショックの時には、筆者が保有する不動産株の多くが倒産してしまったのです。大雑把に自己資本比率15%以下の企業は倒産、30%以上はその後にシェア拡大となったみたいです。不況が来た際に、財務状況が悪い会社は堪えられないのです。
上昇する小型株の特徴
では実際にどのような小型株が上昇するのでしょうか?
経営者が9割
小型株の成長に最も重要なのは「経営者」である、と筆者は断言しています。
- 経営者が企業を成長させる強い意欲があるか
- 経営者の言動が一致しているか
- 優秀な部下がいるか
このような点が重要であると述べられています。優秀な経営者のもとには優秀な部下がつくので、どのような部下がつくかも経営者の力量なのですね。小型株は大型株と比べて、社長の個性や善し悪しが業績に与える影響が圧倒的に大きいのです!
競合に潰されないか
2つ目に重要なのが競合に負けないかです。競合と比べて優位性があるか、ビジネスモデルや財務状況、人的資本の観点から分析することが必要です。
正のフィードバック、負のフィードバック
3つ目は成長と共に強味が強化されるかです。
ある出来事が起きたときに、更に弾みがつくことを「正のフィードバック作用」いい、マイナスに働くことを「負のフィードバック効果」と言います。
マーケットシェアが上がることで、競争力が更に強くなるのは「正のフィードバック」が働いています。SNSは参加者が増えれば増えるほど価値が高まります。これが正のフィードバックです。一方で増収になった次の年は減収になるという場合は「負のフィードバック」が働いています。例えば電力会社は原価が下がると利益が大きくなるが、次の年は電力料金を下げなければならず、利益が減ります。これが負のフィードバックです。
割安小型成長株の最大の魅力は「PERの上昇」と、「EPSの上昇」ダブルで恩恵を受けることです。業績の成長によってEPSが上がっていき、多くの投資家の目に届くようになり、その結果PERも上昇して大きな利益が狙えます。割安小型成長株は個人投資家が最大限の優位性を発揮できるのです。
まとめ
株価に織り込まれていないアイデアを見つけることが利益に繋がります。小型株は参加者が少ないことで、適性の株価より安値で放置されていることが多くて、融通の利く個人投資家にとって大きなチャンスとなります。小型株を分析する上での考え方や手法、伝説の投資家が歩んできた道のりや、その時どのように考えて行動を起こしたかが詳しくまとめられている1冊です。是非、読んでみてはいかがでしょうか。